~安心・安全な継続取引のために
行政書士が解説~
ビジネスが成長するにつれ、会社や個人事業主が外部の専門家・コンサルタント・士業と「継続的な取引関係」を持つことが増えています。こうした長期的なパートナーシップを築く際に欠かせないのが「顧問契約書」です。
しかし実際には、「口頭の約束」「簡単なメールのやり取り」で済ませてしまうケースも多く、業務範囲や料金の認識違い、契約解消時のトラブルが発生しやすいのが現状です。
本記事では、行政書士の立場から、顧問契約書の基本構成、必須項目、注意すべきポイントについて、実務経験を踏まえて詳しく解説します。
~継続的な支援の枠組みを明文化~
顧問契約書とは、弁護士・税理士・行政書士などの士業や、IT・経営・労務コンサルタントなど外部の専門家と、クライアント企業または個人事業主が継続的な業務委託関係を結ぶ際に作成する法的文書です。
単発の業務委託契約とは異なり、月額報酬や定期的な業務提供、不定期での助言など、長期間にわたる協力関係を前提としています。
例えば、以下のようなケースで顧問契約が利用されています。
- 法律・税務・労務の「相談窓口」として士業と顧問契約を締結
- ITや人事、経営改善のコンサルティング契約
- スタートアップ企業が外部CFO、顧問エンジニアと月額で契約
顧問契約書を作成する最大のメリットは、業務範囲・報酬・責任・契約解消の条件などを文書で明確化し、将来のトラブルを防止できる点にあります。
口約束やメールだけでは証拠が不十分になりがちなので、必ず正式な契約書の作成をおすすめします。
~主なパート分け~
- タイトル(表題)…「顧問契約書」「IT顧問契約書」等
- 前文(当事者情報・趣旨)…契約当事者の名称・住所・代表者名、契約締結の趣旨
- 本文(条項部分)…実際の業務内容・報酬・期間・守秘義務等の具体的取決め
- 末文(成立日・契約書部数)…契約成立日、原本の管理方法、部数等
- 署名・押印欄…契約当事者が署名・押印
実際の顧問契約書は、取引内容や業種・業態ごとに必要な条項が変わるため、汎用的な雛形の流用はおすすめできません。以下で必須項目とポイントを解説します。
- 業務範囲・内容(どこまでが「顧問業務」かを明記)
- 報酬額・支払方法(月額、年額、一括、支払日、支払方法等)
- 契約期間・自動更新の有無
- 解約・解除条件(通知方法、違約金等)
- 守秘義務(秘密保持)
- 損害賠償・免責(責任範囲、損害賠償の上限・免責条項など)
- 準拠法・管轄裁判所
- 個別合意条項(必要に応じてオプション業務・別途費用・対応可能時間など)
顧問契約トラブルで最も多いのが「どこまでが顧問の対応範囲なのか?」という解釈の違いです。
例えば、電話・メール相談のみが対象なのか、書面作成や現地立ち合いまで含むのかなど、曖昧にせず具体的かつ詳細に書きましょう。
また、オプション業務(例:スポット業務や新規プロジェクトごとの追加業務)についても、範囲・料金を明記しておくことで、後々のトラブル回避につながります。
【例】「本契約における顧問業務は、月●回までの面談・電話・メール相談とする。別途書面作成業務は、都度見積りのうえ別途契約するものとする。」
報酬(顧問料)は月額/年額、支払時期・支払方法(銀行振込、クレジット等)、消費税の扱いも必ず記載しましょう。
また、成果報酬や着手金が発生する場合は、その計算根拠や支払い条件も明記が必要です。
報酬トラブルはビジネス関係を大きく損なうため、特に明確に定めることが重要です。
顧問契約は「いつまで有効か」「自動更新か」「解約・解除はどうすれば良いか」を必ず明記しましょう。
解約時の通知期間(例:1カ月前までに書面通知)や、違約金・残余期間分の顧問料の有無など、双方納得できる条件を定めておくと、万一のトラブル防止になります。
【例】「契約期間満了の1カ月前までにいずれかの当事者から書面による解約通知がない場合は、契約はさらに1年間自動更新されるものとする。」
顧問契約においては、顧客情報・ノウハウ・知的財産等の守秘義務も欠かせません。
契約期間中のみならず、契約終了後も一定期間守秘義務が継続する旨や、個人情報保護条項も盛り込んでおくことが実務上の鉄則です。
必要に応じて、秘密保持契約(NDA)を別途締結することも有効です。
万一、顧問の助言ミスや契約違反等により損害が発生した場合の賠償責任の範囲、上限額、免責事項も必ず記載しましょう。
また、不可抗力(天災等)による責任免除や、万一の裁判になった場合の準拠法・管轄裁判所も忘れずに盛り込むことが大切です。
【例】「顧問は本契約に基づく助言について善良なる管理者の注意義務を負うが、不可抗力その他顧問の責に帰さない事由による損害については責任を負わないものとする。」
- 「顧問範囲外」の業務や突発的な対応(例:新規プロジェクト・急な出張対応など)は、必ず個別に追加契約・追加料金設定を行う
- 「無制限対応」や「24時間対応」など、過剰な表現は実務負担や責任範囲が曖昧になるため、回数・時間・条件を制限する
- 業務日誌やレポート提出義務の有無も明記(双方の確認・証拠保全のため)
- 士業の場合は「法律相談のみ対応」「交渉代理・訴訟対応は除く」等、職域の範囲も明確化
近年は「電子署名サービス(クラウドサイン等)」を利用した顧問契約の締結が一般的になっています。
電子契約でも法的効力は変わりませんが、電子署名や証拠管理の方法、データの保管・バックアップ体制もあわせて契約書内で合意しておくと安心です。
顧問契約は、長期的な信頼関係を築くための大切なパートナーシップ契約です。
雛形の流用や口約束ではなく、実際の業務内容・体制・双方の意図を反映した「オーダーメイド契約書」を作成することで、安心・安全な取引を実現できます。
不明点や不安な点がある場合は、行政書士等の専門家にご相談いただくことをおすすめします。
雛形流用で不安な方や、継続的な顧問契約を安心して結びたい方は、ぜひお気軽にご相談ください。