未払い残業代やサービス残業がある状態で退職したい場合、行政書士が対応できる範囲と、弁護士へ連携すべきラインを正確に解説。内容証明退職では何ができて何ができないのか、法的リスクと実務ポイントを整理します。
1.未払い残業代の主張は「法律問題」になるのか
未払い残業代(いわゆるサービス残業)の問題は、
労働基準法、労働契約法に関わる 法律上の権利請求 に該当します。
つまり、
- 「会社に対して一定額の支払い義務があるか」
- 「証拠が十分か」
- 「請求が認められるか」
といった判断は、すべて 法律行為 です。
このため、
行政書士が単独で取り扱える範囲には限界があります。
なお、
未払い残業代の存在そのものは退職理由となり得るため、
内容証明を利用して離脱すること自体は可能です。
2.行政書士ができること・できないこと(明確な境界線)
行政書士が行えるのは、
「書面作成」と「事実整理」 です。
反対に、
会社との交渉や金銭請求はできません。
◎行政書士ができること(適法範囲)
① 退職理由として「未払い残業がある」事実の整理
- 長時間労働
- タイムカードと実労働時間の差
- 就業規則との乖離
などの事実整理は可能です。
② 内容証明で退職意思を通知する
退職の意思表示を内容証明で明確にすることは適法です。
未払い残業の事実により勤務継続が困難なため、退職の意思を通知いたします。
このような“事実の伝達”は行政書士の範囲に収まります。
③ 労働時間の記録化・証拠の保全アドバイス
- 出退勤の写真
- LINEの指示記録
- 業務日報の控え
など、証拠化のアドバイスは可能。
◎行政書士ができないこと(非弁行為となるため禁止)
✖ ① 残業代の「金額を計算」し請求する
金額の算定+請求は法律行為に該当します。
✖ ② 会社に対して「支払を求める」「交渉する」
未払い残業代の請求は、
弁護士のみが扱える業務範囲です。
✖ ③ 会社の法的責任を断定する
「違法である」「損害賠償を請求できる」
といった評価は行政書士は行いません。
✖ ④ 労基署同行・交渉代理
代理行為は行政書士の権限外です。
3.内容証明でできるのは「事実整理と退職意思の通知」まで
未払い残業代を理由に退職したい場合、
内容証明でできるのは次の範囲です。
◎① 退職の意思表示
本書面をもって退職の意思を通知いたします。
◎② 退職日の設定(到達日または2週間後)
未払い残業が続いている場合、
即日退職の主張も視野に入ります。
◎③ 事実の伝達
実労働時間と賃金支払いとの乖離があり、心身の負担が大きい状況です。
ここまでは行政書士が扱えます。
4.会社側が示しやすい反応と行政書士としての扱い
未払い残業問題を含む退職では、
会社側は次のような反応を示しがちです。
◎反応①「辞めるなら残業代は払わない」
→ 違法ですが、行政書士は請求できません。
この場合は弁護士連携が必須です。
◎反応②「計算が合わないので話し合いたい」
→ 話し合い=交渉に発展するため、行政書士は対応しません。
書面完結が基本です。
◎反応③「記録がないと払えない」
→ 証拠化のアドバイスは行政書士が可能。
請求は弁護士領域。
◎反応④「退職日を延ばして働け」
→ 未払い残業の継続は「やむを得ない事由」に該当し得るため、
即日退職の主張も検討できます。
5.弁護士に連携すべきケースの判断基準
未払い残業代が関係する相談では、
「どこまで行政書士で扱い、どこから弁護士か」
という線引きが非常に重要です。
◎弁護士につなぐ必要があるケース
以下のいずれかに該当すれば、弁護士が必要です。
① 残業代の金額を知りたい・取り戻したい
金額計算+請求は弁護士専権です。
② 会社に請求書を送りたい
行政書士では作成できません。
③ 労基署へ申告して会社とやり取りが必要
代理交渉となる恐れがあります。
④ 会社から損害賠償を示唆された
法的紛争の可能性があるため、弁護士へ連携します。
⑤ 会社が話し合いを要求してくる
話し合い=交渉となるため、行政書士対応外です。
6.証拠をどこまで残すべきか(退職前に可能な範囲)
未払い残業をめぐる請求では、
次のような証拠が有効です。
◎① タイムカード・勤怠記録
スマホ撮影で十分。
◎② メールやLINEの業務指示
特に「時間外指示」が証拠になります。
◎③ シフト表・出勤簿
実労働時間との比較が可能。
◎④ PCログ・入退館記録
就業時間を裏付けます。
◎⑤ 給与明細
固定残業代制度の場合は特に重要。
これらは行政書士の業務範囲で整理可能であり、
請求段階で弁護士が活用できる証拠になります。
7.退職手続きと残業代請求は別ルートで進む理由
多くの相談者が混同しがちですが、
退職手続き(退職意思表示)と残業代請求は
法律上まったく別ルート で進みます。
◎退職=行政書士で対応可能
- 内容証明
- 到達日退職
- 電話制限の文言
- 貸与物返却手続き
これは行政書士の範囲です。
◎残業代請求=弁護士領域
- 法的評価
- 金額請求
- 交渉・訴訟
これらは弁護士が行います。
◎退職手続きが先行した方が安全な理由
退職を先に完了させることで、
- 会社との接触が減る
- 心身の負担が軽減
- 請求に集中できる
- 証拠の整理もしやすくなる
というメリットがあります。
8.まとめ|限界を理解して安全に離脱し、請求は専門家へ
未払い残業代・サービス残業の問題は、
退職に至る理由として非常に多いものです。
しかし、
- 行政書士が扱えるのは「事実整理」と「退職通知」まで
- 請求・交渉・法的評価は弁護士の領域
という明確な境界線があります。
内容証明退職では、
安全に離脱するための書面作成に特化し、
残業代請求は弁護士へ引き継ぐ流れが最も効率的 です。
行政書士と弁護士が役割分担することで、
不利益なく、確実にあなたの権利を守れる体制になります。


