契約書の損害賠償上限はいくらに設定すべきか。契約金額・報酬額を基準にする方法、累積上限、直接損害・逸失利益、故意・重過失などの例外、条文例を行政書士が解説します。
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契約書の損害賠償上限条項とは
損害賠償上限条項とは、契約違反によって相手方に損害が発生した場合に、当事者が負担する損害賠償額の上限を定める条項です。
業務委託契約やシステム開発契約などでは、受託者が受け取る報酬額よりも、契約違反によって発生する損害の方が大きくなる可能性があります。
たとえば、受託者が50万円でシステムの一部を開発したところ、その不具合によって発注者の業務が停止した場合、発注者から数百万円、数千万円の損害を主張されることも考えられます。
納期遅延、成果物の不具合、データ消失、情報漏えいなども、契約金額を超える損害につながりやすい場面です。
このような予測困難な責任を限定し、契約金額と責任の大きさを釣り合わせるために、損害賠償上限条項が設けられます。
ただし、単に「損害賠償の上限は契約金額とする」と書けば十分とは限りません。
上限の計算基準、対象となる損害、契約期間中の累積額、上限を適用しない例外まで決めておかなければ、実際にトラブルが発生したときに解釈が分かれる可能性があります。
損害賠償の上限は必ず設けるべきか
すべての契約書に損害賠償上限条項を設けなければならないわけではありません。
もっとも、受託者側に高額な損害が発生する可能性がある契約では、上限を設けないことが大きな経営リスクになります。
特に、システム開発、Webサイト制作、コンサルティング、データ処理、広告運用、製造委託などでは、受託者が提供する業務が発注者の売上や事業運営に影響することがあります。
受託者側から見れば、受け取る報酬が数十万円であるにもかかわらず、損害賠償責任には上限がないという契約は慎重に確認すべきです。
一方、発注者側にとっては、上限額があまりに低いと、実際の損害を十分に回収できない可能性があります。
重要な業務を委託するにもかかわらず、受託者の責任が月額報酬1か月分に限定されていれば、発注者が残りの損害を負担することになります。
したがって、損害賠償上限条項は、単に責任を小さくするための条項ではありません。契約金額、発生し得る損害、当事者の事業規模を踏まえて、どちらがどこまでリスクを負担するかを決める条項です。
損害賠償上限額を決める代表的な方法
上限額に法律上の一律の基準はありません。事業者間契約では、契約内容や交渉力、取引規模などを踏まえて当事者間で決定します。
比較的分かりやすいのは、当該契約の契約金額または報酬総額を上限にする方法です。100万円の業務委託契約であれば、損害賠償責任の上限も100万円とする形です。
契約金額と責任額が対応するため、単発の業務委託契約、制作契約、開発契約などで使いやすい設計です。
損害発生時の影響が大きい契約では、契約金額の2倍などを上限にすることもあります。反対に、受託者が限定的な業務しか担当せず、発注者側で最終確認を行う契約では、報酬額より低い固定金額を交渉することも考えられます。
継続的な契約では、契約終了までの報酬総額が決まっていないことがあります。
その場合は、「損害発生前6か月間に支払われた報酬総額」「直近12か月分の利用料金」など、一定期間の報酬を基準に設定します。
固定金額を上限とする方法もありますが、契約更新や取引規模の拡大によって金額が実態に合わなくなる可能性があるため、定期的な見直しが必要です。
契約金額・支払済報酬・年間報酬のどれを基準にするか
条文を作成するときは、「契約金額」と「支払済報酬」を区別する必要があります。
たとえば、「甲が乙に支払った報酬額を上限とする」と定めた場合、業務開始直後や報酬の支払い前に事故が発生すると、支払済報酬がゼロまたはごく少額になる可能性があります。
発注者側から見れば、実質的に責任がほとんどない条項となりかねません。
一方、「本契約に基づく報酬総額」と定めても、月額制の継続契約では契約終了までの総額を確定できない場合があります。
単発契約であれば、当該契約または当該個別契約の対価総額を基準にする方法が分かりやすいでしょう。
継続契約であれば、損害発生前の一定期間に支払われた報酬や、支払われるべき報酬を基準にする方法が考えられます。
取引基本契約の下で複数の個別契約を締結する場合は、すべての個別契約の総額を上限とするのか、問題が生じた個別契約の金額だけを上限とするのかも明確にします。
「報酬額を上限とする」という短い一文だけでは、実際の計算方法を確定できない可能性があるのです。
1事故ごとか累積総額かを明確にする
損害賠償の上限を決めるときは、その上限が一つの事故や請求ごとに適用されるのか、契約期間中のすべての請求を合計した金額に適用されるのかも確認します。
たとえば、上限額を100万円とした契約で、50万円の損害が3回発生した場合を考えてみましょう。
上限が請求ごとに適用されるのであれば、合計150万円の賠償責任が発生する可能性があります。これに対して、契約期間中の累積総額を100万円とする条項であれば、3回の損害を合計しても責任は100万円までとなります。
受託者側が経営リスクを予測可能にしたいのであれば、累積総額として上限を定める方が明確です。
発注者側としては、複数回の契約違反が繰り返された場合まで同じ上限に含めてよいかを検討する必要があります。
条文では、「本契約に関して乙が甲に負う損害賠償責任の累積総額は」といった表現を使い、上限が契約全体に対するものかを明らかにします。
直接損害・間接損害・逸失利益の扱い
損害賠償責任を設計する際は、金額の上限だけでなく、どのような損害を賠償対象とするかも重要です。
契約書では、「通常かつ直接の損害に限る」「特別損害、間接損害および逸失利益を含まない」といった規定が使われることがあります。
逸失利益とは、契約違反がなければ得られたはずの利益をいいます。
たとえば、システム障害によって商品を販売できなかった場合に、その期間中に得られたはずの売上や利益が請求されるケースです。
もっとも、「直接損害」「間接損害」という言葉だけでは、どの損害が含まれるのか明確でないことがあります。
データの復旧費用、第三者から受けた請求、営業停止による利益の減少などをどちらに分類するかについて、当事者の認識が一致しない可能性があるためです。
損害の種類を限定する場合は、抽象的な言葉だけで済ませず、対象外とする損害を契約内容に合わせて整理することが重要です。
故意・重過失など上限を適用しない例外
損害賠償上限条項を設けても、すべての契約違反に一律で上限を適用するとは限りません。
一般的には、当事者の故意または重大な過失によって損害が生じた場合について、上限の適用対象外とすることがあります。
故意や重過失による重大な契約違反まで、通常のミスと同じ金額に制限することは、相手方から受け入れられにくいためです。
取引内容によっては、秘密保持義務違反、個人情報の漏えい、知的財産権の侵害、反社会的勢力排除条項への違反なども上限の例外とします。
ただし、例外を増やしすぎれば、実際に問題となりやすい損害の多くが上限の対象外となり、責任限定条項を設けた意味が薄くなります。
反対に、例外をまったく設けなければ、発注者側が過大なリスクを負う可能性があります。
また、消費者と事業者との契約では、消費者契約法による制限にも注意が必要です。事業者の故意または重大な過失による損害賠償責任の一部を免除する条項などは、無効となる場合があります。
事業者間契約と消費者契約を同じひな型で運用しないことが大切です。
損害賠償上限条項の条文例
単発の業務委託契約で受託者の責任を限定する場合、次のような条文が考えられます。
第○条(損害賠償)
1.甲または乙は、本契約に違反し、相手方に損害を与えた場合、当該違反と相当因果関係のある通常かつ直接の損害に限り、その損害を賠償する責任を負う。
2.乙が本契約に関して甲に負う損害賠償責任の累積総額は、債務不履行、不法行為その他の請求原因のいかんを問わず、当該損害の原因となった個別契約に定める報酬総額を上限とする。
3.前項の規定は、乙の故意または重大な過失によって生じた損害については適用しない。
この条文例では、対象となる損害、累積上限、上限額の基準、例外を分けて定めています。
ただし、このまますべての契約に使用できるわけではありません。
継続契約では報酬総額の基準を変更する必要があり、情報漏えいや知的財産権侵害のリスクが高い契約では、別の例外を設けることもあります。
また、発注者側から見れば、受託者の責任だけが制限されている点が妥当か、相互の責任に同じ上限を適用すべきかも確認が必要です。
相手方から提示された上限条項の確認ポイント
相手方から契約書を提示された場合、上限額だけを見て判断するのは危険です。
まず、その条項が自社だけに適用されるのか、双方に適用されるのかを確認します。
「乙の責任は契約金額を上限とする」と書かれている一方で、甲が負う損害賠償責任には上限がないという契約もあります。
次に、上限額を計算する基準を確認します。
契約金額、支払済報酬、直近数か月分の報酬では、実際の上限額が大きく異なります。請求ごとか累積総額か、個別契約単位か取引全体かという違いも重要です。
さらに、故意・重過失、秘密保持義務違反、個人情報漏えいなどがすべて上限の対象外になっていないかを確認します。
例外の範囲が広すぎれば、受託者が想定していた責任限定が実際には機能しない可能性があります。
業務によっては、損害賠償保険やサイバー保険の補償額との整合性も確認しておくとよいでしょう。
「契約金額が小さいから問題ない」と考えるのではなく、契約違反によって相手方の事業にどの程度の影響が生じるかを基準に判断する必要があります。
まとめ|金額だけでなく適用範囲まで設計する
損害賠償上限条項は、契約違反が発生した場合の経営リスクを予測可能にするための重要な条項です。
しかし、上限額だけを決めても、十分な責任設計にはなりません。
契約金額、支払済報酬、年間報酬のどれを基準にするのか、請求ごとか累積総額か、どの種類の損害を対象とするのか、故意・重過失などを例外とするのかまで明確にする必要があります。
発注者側と受託者側では、適切と考える上限額や例外の範囲も異なります。
受託者側にとっては無制限の責任を回避するための防御になりますが、発注者側にとっては、実際の損害を回収できる内容になっているかを確認しなければなりません。
「損害賠償責任が無制限になっている」
「相手方から提示された上限額が低すぎる」
「自社の契約書にどの程度の上限を設定すべきか分からない」
「インターネットのひな型をそのまま使用してよいか不安」
このような場合は、損害賠償条項だけでなく、契約内容、報酬、業務範囲、検収、保証、秘密保持、解除などの関連条項も含めて確認することが大切です。
行政書士は、取引内容や当事者の立場を確認したうえで、契約書の新規作成や、相手方から提示された契約書の内容確認を行います。
契約後に想定外の責任が判明する前に、自社が負担できるリスクの範囲を契約書で明確にしておきましょう。
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