行政書士が行える退職サポートはどこまでか。交渉が伴うケースや損害賠償が絡む場合は弁護士が必要です。本記事では、行政書士・弁護士の業務範囲と適切な使い分けを実務目線で解説します。
1.行政書士が退職サポートで担える役割とは?
行政書士は「書類作成の専門家」として、
退職に関わる 文書の作成・発送 を中心にサポートすることができます。
■行政書士が行える主な業務
- 内容証明郵便による退職意思表示の文案作成
- 退職日設定(到達日退職・有給後退職等)の法的整理
- 貸与物返却、引継ぎ等の書面化
- 電話回避のための文言作成
- メール・FAX送信方法の指示
- 退職後の会社の対応への助言(法的評価を伴わない範囲)
- 労基署・ハローワーク手続の案内
- トラブル想定に基づく「予防法務」としての文面設計
行政書士の本質は、
書面化によって紛争を未然に防ぎ、安全に退職を成立させる
という点にあります。
2.行政書士ができない業務(弁護士法72条)
行政書士には、法律で明確に禁止されている業務があります。
代表的なものが 交渉・代理行為・法律相談の範囲超過 です。
■行政書士ができない業務
- 会社との交渉(退職条件・金銭・有給等)
- 会社の要求に対する反論文書の作成
- 未払い賃金・残業代の請求
- 損害賠償請求の対応
- 不当解雇・懲戒処分に対する争い
- 企業との代理交渉(電話・書面・対面)
- 裁判・労働審判の代理
- 労働問題の紛争処理の全面対応
弁護士法72条に抵触するため、
行政書士は 「争いが生じている場面」や「代理交渉」 には関われません。
あくまで、
争いにならないように書面で整理する専門家
です。
3.弁護士につなぐべきケースの具体例
以下のようなケースは、行政書士の範囲を超えるため、
弁護士が適切です。
◎① 未払い賃金・残業代・退職金の請求が必要なとき
金銭を請求する時点で行政書士の範囲外。
◎② 会社が損害賠償請求をしてきたとき
内容証明で脅してくる企業もありますが、
反論や交渉は弁護士の業務。
◎③ 退職日を巡って争いになっているとき
企業が退職日を認めず、出社を強制するケースなど。
◎④ パワハラ・セクハラの損害賠償を求めたいとき
損害賠償請求は弁護士の独占業務です。
◎⑤ 懲戒解雇にされ、争いたいとき
懲戒解雇の無効を争うには法律構成が必須。
◎⑥ 労働審判・訴訟への発展が予想されるとき
司法手続が絡む場合は弁護士でなければ対応不可。
◎⑦ 会社と対話が必要なケース(交渉)
退職条件を調整したい、円満退社を希望するなど
「交渉」が必要な場面は弁護士領域。
4.行政書士で対応できるケースの特徴
逆に、行政書士が最も力を発揮するのは以下のケースです。
◎① 会社と交渉するつもりがない
→ 書面で退職手続きを進めたい人向け。
◎② 電話を避け、関わらずに辞めたい
→ 行政書士が「交渉しない退職スキーム」を設計できる。
◎③ 内容証明による退職意思表示で完結するケース
→ 到達日退職・有給後退職などは行政書士の得意分野。
◎④ 会社と争う気はないが、確実に辞めたい
→ 証拠化だけで解決する場合が大半。
◎⑤ 精神的負担が大きく、会話ができない
→ 書面主体で処理するため精神的負担が少ない。
◎⑥ 退職後の嫌がらせ・引き止めが不安
→ 書面化で先手を打てる。
行政書士のアプローチは、
「争わせない」「揉めない」「安全に完了させる」
という方向性です。
5.行政書士による内容証明退職のメリット
行政書士が行う内容証明退職には、多くのメリットがあります。
◎メリット①|法的に整合性のある文面
退職日・有給・返却物・連絡制限など、
法令と実務の両面から矛盾のない文面を作成。
◎メリット②|会社の不当要求を抑止
内容証明という形式が、企業側の軽率な言動を防止。
◎メリット③|交渉ではないためコストが安い
弁護士と比べて気軽に利用できる。
◎メリット④|トラブルが起きる前に“予防”できる
行政書士の本領は 予防法務 にある。
「揉める前に勝ち筋を作る」アプローチ。
◎メリット⑤|退職後の手続きもスムーズ
離職票・社会保険・貸与物などの扱いを文書で整理すれば、
会社の嫌がらせを最小化できる。
6.どう判断する?行政書士か弁護士かの基準
以下の基準で判断すると極めて明確になります。
■行政書士が適切なケース
- 退職の意思表示・退職日の確定をしたい
- 会社と話したくない
- 電話回避したい
- 内容証明を送りたい
- トラブルを避けたい
- 会社と争うつもりはない
- 損害賠償など金銭請求をする気はない
■弁護士が適切なケース
- すでに会社が争う姿勢を見せている
- 損害賠償を検討している
- 未払いの請求をしたい
- 退職日を巡って対立している
- 懲戒解雇を争いたい
- 金銭交渉が必要
- 法的紛争の可能性が高い
■行政書士 → 弁護士の自然な連携
行政書士が内容証明で退職を成立させた後、
必要があれば弁護士へ橋渡しするケースもある。
「まず安全に辞めてから、必要なら法的措置へ」
という流れは安全性が高い。
7.行政書士が実務で行う「安全設計」
行政書士が最も重視するのが
書面と手続きの安全設計 です。
◎安全設計のポイント
- 退職日を明確にして争いを封じる
- 有給の扱いを整理し、出社不要にする
- 返却物の扱いを事前に文書化
- 電話回避の文言で心理負担を軽減
- メール・FAXとの併用で到達を確実化
- 退職後の対応も記録し、証拠化
行政書士は
「交渉しない退職」 のプロフェッショナルです。
だからこそ、
弁護士の領域に踏み込まず、
安全・確実に退職手続きを完了させることができます。
8.まとめ|適切な線引きが安全な退職に直結する
行政書士と弁護士は、
どちらが優れているかではなく、
役割が異なる だけです。
◎本記事のまとめ
- 行政書士は書面作成と予防法務の専門家
- 弁護士は紛争解決・交渉・請求の専門家
- 争う気のない退職なら行政書士が最適
- 金銭請求や対立があるなら弁護士が必要
- 内容証明退職は行政書士の強みが最も出る分野
- 適切な使い分けが安全な退職につながる
退職は「誰に依頼するか」で安全性が大きく変わります。
行政書士の文書設計により、
“争いを避けながら確実に辞める” という方向性が実現できます。


