会社に直接電話をしてくれるタイプの退職代行は、即日性が高い一方で、非弁リスクやトラブル時の弱さもあります。本記事では、電話交渉型の退職代行が向くケース・向かないケース、行政書士の内容証明退職との使い分けの考え方を整理します。
1.「電話で会社に交渉してくれる退職代行」とはどんなサービスか
近年増えているのが、
「本人の代わりに会社へ電話をして、退職の意思や条件を伝える」
タイプの民間退職代行サービスです。
広告上は、
- 会社への連絡はすべて代行
- もう出社・電話は一切不要
- 上司と話さなくていい
といったコピーが並びます。
実際の運用としては、
- 利用者からヒアリング(LINE/電話など)
- 退職代行業者が会社へ電話
- 「○○さんは退職の意思です」「出社は困難です」などを伝達
- 就業規則や退職日、有給消化などについて会社とやり取り
という流れになることが多く、
実質的に 「窓口役」「調整役」 として動くイメージです。
このスタイルは「楽そう」「全部やってくれそう」に見えますが、
当然ながらメリットと同時にリスクも存在します。
2.電話交渉型退職代行の強みとメリット
まず、電話で会社に連絡してくれる退職代行には、
他の方式にはない強みがあります。
◎① 即時性が高い(その日すぐ電話してもらえる)
- 相談したその日に会社へ電話、というフローを売りにしている事業者も多く、
「今日もう行きたくない」というニーズに表面的にはマッチしやすいです。
◎② 会社として状況を把握しやすい
- 人事担当や上司の感覚からすれば、
「突然、内容証明が届く」よりも、
「まず電話で事情説明がある」方が心理的ハードルは低いこともあります。
◎③ 利用者側から見て「全部任せられる」感覚になりやすい
- 電話が苦手・上司と話すのが怖い場合、
「自分は一切出ないで済む」という安心感は確かにあります。
こうした特徴から、
電話交渉型は 「今すぐ誰かに間に立ってほしい」 という欲求を満たしやすいサービスです。
3.電話交渉型ならではのデメリット・リスク
一方で、同じポイントがそのままリスクにもなり得ます。
△① 会話内容が残りにくく、「言った・言わない」になりやすい
- 電話でのやり取りは、録音でもしない限り証拠が残りません。
- 「会社がこう言ってきた」「退職代行はこう伝えた」など、
後から確認しようとしても実態が追えないケースが多いです。
△② 交渉に踏み込むと非弁行為の問題が出てくる
- 「退職日を前倒ししてほしい」「有給を全部消化させてほしい」
- 「退職金を多く支給してほしい」
こういった話が進むと、「伝言」ではなく交渉に近づいていきます。
交渉は本来、弁護士の独占業務とされる領域であり、
悪い意味で注目を集めている分野でもあります。
利用者の立場からすると、
どこまでがセーフでどこからがアウトなのか判断しづらいのが実情です。
△③ 会社側が感情的になりやすい
- 「本人は一言も出てこないのか」
- 「なぜ本人と話せないのか」
と感情的に受け止める上司も一定数います。
電話でのやり取りは、
双方の感情がぶつかり合いやすく、
冷静さを欠いたまま話が進んでしまうリスクがあります。
△④ 退職後トラブルになったときの武器になりにくい
- 内容証明のような「書面の証拠」がないため、
後から懲戒・損害賠償・クレームが出てきても、
利用者側が提示できる材料が乏しくなります。
電話交渉型は、
その場しのぎとしては便利に見える一方で、
「後から守ってくれるもの」が少ない という構造的な弱点があります。
4.【向くケース】電話交渉型退職代行を検討してよい場面
こうした前提を踏まえたうえで、
電話交渉型が比較的「向く」と考えられるのは、例えば次のような場面です。
●① アルバイト・短期パートで、関係性が薄い職場
- シフト制のアルバイト
- 短期間だけ働いていた飲食店・コンビニ等
など、
雇用関係が比較的軽く、今後も関わりがほぼないケースでは、
「とにかくすぐ電話してもらって終わらせたい」という発想もあり得ます。
●② 会社が小規模で、法務・人事的な動きが想定しにくい場合
- 個人経営レベル
- 正社員というよりは「準バイトに近い」ような扱い
など、
いわゆる“紛争化”しにくい職場であれば、
電話でさっと話をつけてしまうことのメリットは一定あります。
●③ 利用者自身も「多少の条件はもう気にしない」というスタンスのとき
- 有給が残っているが、もういいからとにかく辞めたい
- 退職金などは元々期待していない
といった割り切りができている場合、
多少ラフな終わり方でも本人の納得感は得やすいです。
5.【向かないケース】電話交渉型を避けた方がよい場面
逆に、以下のようなケースでは
電話交渉型退職代行は推奨しづらい領域です。
×① 正社員・長期勤務・役職がある
- 社歴が長い
- 役職者・店長・管理職など
- 担当案件や部下を抱えている立場
このようなポジションでは、
退職後に引き継ぎ・損害・懲戒などが問題化する可能性が高くなります。
口頭だけのやり取りでは、守りが弱すぎる と考えた方が無難です。
×② ハラスメント・長時間労働・メンタル不調が背景にある
- パワハラ・モラハラ
- うつ・適応障害の診断
- 長時間残業・過労
といった要素が絡む場合、
トラブルが「法的紛争」に発展する余地があります。
こうした案件では、
事実関係を丁寧に書面化しておかないと、
後から立証に苦労するリスクが高いです。
×③ 会社が法務・人事を前面に出してくるタイプ
- 上場企業・大企業
- 人事部・法務部が対応窓口になる
- 書面での回答を求めてくる
こうした環境では、
電話ベースの退職代行は相性が良いとは言えません。
会社側は「書面」「規程」「ルール」で動くため、
こちらも 内容証明などの書面で応じた方が整合的 です。
×④ 懲戒・損害賠償などのワードがすでに出てきている
- 「懲戒解雇にするぞ」
- 「損害賠償請求もあり得る」
などの発言が出ている場合、
電話でやり取りを続けるのは危険です。
この段階まで来ているのであれば、
書面で事実と意思を整理するフェーズ に入れる方が現実的です。
6.電話交渉型を使う前に確認したいチェックポイント
もし電話交渉型退職代行を検討するのであれば、
最低限、以下は確認しておくことをおすすめします。
■事業者側に確認したいこと
- 交渉ではなく「伝言」の範囲にとどめているか
- 有給・退職金・残業代などの話にどう関わるのか
- トラブルになった場合の方針(途中で弁護士に丸投げしないか)
- 通話内容の記録やレポートをどこまで残してくれるか
■自分の中で整理しておくこと
- 今後、その会社と法的に争う可能性はあるか
- 退職後のクレームが出てきたとき、証拠の少なさを許容できるか
- 「楽さ」と「リスク」のどちらをどれだけ重視するか
「とりあえず安いから」「有名だから」だけで決めると、
後から後悔することになりかねません。
7.行政書士による内容証明退職との使い分けの考え方
行政書士型・内容証明特化の退職サポートと比較すると、
役割の違いはかなり明確です。
●電話交渉型退職代行
- 今すぐ電話してほしい
- その場で話をつけたい
- 「証拠」よりも「スピード」「気楽さ」を優先
●行政書士・内容証明退職サポート
- 退職の意思表示・退職日・事情を 書面で残したい
- 会社からのクレームや懲戒が怖い
- 電話は一切したくない
- 将来的なトラブルリスクも含めて、法的に安全なラインで進めたい
両者は、
「現場での即時対応」 を優先するのか
「書面による安全な出口設計」 を優先するのか
という価値観で分かれます。
特に 正社員・長期勤務・精神的ダメージが大きい案件 では、
電話交渉型よりも、
行政書士による内容証明退職の方が
長期的な意味でのリスクは低くなるケースが多いといえます。
8.まとめ|「楽そうだから」ではなくリスクも踏まえて選ぶ
【電話で会社に交渉してくれる退職代行】は、
- 即日性
- 手離れの良さ
という意味で魅力的に映ります。
しかし、その裏側には、
- 会話内容が残りにくい
- 非弁リスクのグレーゾーン
- トラブル時の“守りの弱さ”
といったポイントも存在します。
一方で、行政書士による内容証明退職サポートは、
- 電話を一切使わず
- 退職の意思表示・退職日・事情・返却物・連絡制限を
書面でしっかり残す
というアプローチです。
「今この瞬間の楽さ」だけでなく、
退職後の安全性や、証拠として残るかどうか も含めて比較すること。
これが、
退職代行サービス選びで失敗しないための一番のポイントです。


