逸失利益とは、契約違反がなければ得られたはずの利益です。間接損害・特別損害との違い、「直接かつ通常の損害」に限定する条項、逸失利益を除外する条文例と注意点を行政書士が解説します。
逸失利益とは何か
逸失利益とは、契約違反や事故などがなければ得られたはずであるにもかかわらず、その出来事によって得られなくなった利益をいいます。
事業者間の契約では、次のような損害が逸失利益として問題になることがあります。
- システム停止によって受注できなかった利益
- 納品の遅れによって失った販売機会
- 製品の不具合によって中止になった取引の利益
- 契約違反によって営業できなかった期間の利益
- サービス停止によって解約した顧客から得られるはずだった利益
例えば、業務システムの不具合によって商品を販売できなかった場合、復旧費用だけでなく、その期間に得られるはずだった利益まで請求される可能性があります。
契約金額が小さくても、逸失利益の計算期間や対象となる取引が広がれば、損害額が契約金額を大きく上回ることがあります。
そのため、契約書を作成するときは、契約違反があった場合に逸失利益まで賠償対象に含めるのか、あらかじめ確認しておくことが重要です。
逸失利益は売上額そのものではない
逸失利益は、失われた売上額と必ずしも同じではありません。
商品を販売できなかったとしても、その販売によって発生するはずだった仕入費用、外注費、配送費などの支出を免れている場合があります。
そのため、逸失利益を考えるときは、得られるはずだった売上だけでなく、売上を得るために必要だった費用も考慮する必要があります。
例えば、100万円の商品を販売できなかった場合でも、仕入れや配送に70万円かかる予定だったのであれば、100万円全額がそのまま逸失利益になるとは限りません。
また、過去の売上実績、受注の確実性、利益率、契約の継続可能性などによっても、逸失利益の考え方は変わります。
単に「将来これだけ売れる予定だった」と主張すれば、その全額が当然に賠償対象になるものではありません。
契約書では、金額の不確定な逸失利益を対象に含めると責任範囲が広がるため、取扱いを明確にしておく必要があります。
通常損害と特別損害の考え方
契約違反による損害賠償の範囲について、民法では通常損害と特別損害という考え方が示されています。
通常損害とは、その契約違反によって通常生じると考えられる損害です。
例えば、納品された製品に不具合があり、交換や修理が必要になった場合の費用は、通常損害として扱われる可能性があります。
一方、特別損害とは、契約当事者に固有の事情など、特別な事情によって発生した損害です。
例えば、納品が遅れたことによって発注者が別の大口取引を失った場合、その大口取引の存在は受注者にとって当然には分からないことがあります。
特別な事情によって生じた損害については、契約違反をした側がその事情を予見すべきだったかどうかが重要になります。
ただし、どこまでが通常損害で、どこからが特別損害になるかは、損害の名称だけで機械的に決まるものではありません。
契約の内容、取引の目的、当事者が事前に認識していた事情などを踏まえて判断されます。
直接損害と間接損害は何が違うのか
契約書では、「直接損害」「間接損害」という表現もよく使われます。
一般的には、契約違反から直接発生した費用などを直接損害、その結果として派生的に発生した損害を間接損害と表現することがあります。
ただし、直接損害と間接損害には、法律上の統一された定義があるわけではありません。
また、直接損害と通常損害、間接損害と特別損害も、必ず同じ意味になるとは限りません。
例えば、契約違反によって失われた利益が、その取引の性質上、通常発生すると考えられる場合があります。この場合、逸失利益であっても通常損害として扱われる可能性があります。
反対に、実際に支出した費用であっても、特殊な事情によって拡大した部分については、当然にすべてが賠償対象になるとは限りません。
契約書に「間接損害は賠償しない」とだけ書かれていても、何が間接損害に該当するのかをめぐって認識が分かれる可能性があります。
損害の範囲を限定したい場合は、「直接損害」「間接損害」という言葉だけに頼らず、逸失利益、特別損害、付随的損害など、除外したい損害を具体的に記載することが大切です。
逸失利益は必ず間接損害になるのか
逸失利益が必ず間接損害になるわけではありません。
逸失利益は、契約違反によって得られなくなった利益という損害の内容を表す言葉です。
一方、直接損害や間接損害は、契約違反と損害との関係を表すために使われることがある言葉です。
したがって、両者は分類の基準が異なります。
例えば、販売システムの稼働そのものを目的とする契約で、システム停止による販売利益の喪失が当事者双方に明確に想定されていた場合、その逸失利益が直接的な損害として主張される可能性があります。
そのため、「間接損害を除外する」とだけ記載しても、逸失利益まで確実に除外できるとは限りません。
逸失利益を賠償対象から外したい場合は、「逸失利益については賠償責任を負わない」と明記した方が、当事者間の認識を合わせやすくなります。
契約書で損害の範囲を定める理由
契約書で損害賠償の範囲を定める目的は、どちらか一方を一方的に有利にすることだけではありません。
契約違反が起きた場合に、どこまで責任を負うのかを事前に共有し、取引上のリスクを予測できる状態にすることが目的です。
特に、業務委託契約、システム開発契約、継続的な取引契約などでは、契約金額よりも発注者側の事業規模が大きいことがあります。
受託者のミスによって発注者の営業が停止した場合、逸失利益まで含めると、受託者が受け取った報酬を大きく上回る損害が請求される可能性があります。
一方で、発注者側から見ると、受託者の契約違反によって現実に事業利益を失ったのに、すべての逸失利益が除外されている契約では、十分な補償を受けられない可能性があります。
どちらの立場を重視するかは、契約金額、業務の重要性、損害発生の可能性、保険加入の有無などを踏まえて決める必要があります。
「直接かつ現実に生じた損害」の注意点
契約書では、次のような文言が使われることがあります。
相手方に直接かつ現実に生じた損害に限り、賠償責任を負うものとする。
この文言は、賠償範囲を限定する目的で使われます。
ただし、「直接」「現実に生じた」という表現だけでは、逸失利益が含まれるかどうかが明確にならないことがあります。
逸失利益も、現実に発生した利益の喪失として請求される可能性があるためです。
また、「通常かつ直接の損害」と書かれている場合でも、「通常」と「直接」がどのような関係にあるのか、具体的な契約内容によって解釈が分かれる可能性があります。
逸失利益を除外するのであれば、直接損害への限定と併せて、逸失利益を除外する文言を入れておく方が明確です。
反対に、一定の逸失利益を賠償対象に含めたい場合は、その対象、期間、計算方法や上限をできるだけ具体的にしておく必要があります。
逸失利益を除外する条文例
事業者間契約において、逸失利益を賠償対象から除外する場合は、次のような条文が考えられます。
第○条(損害賠償)
甲および乙は、自己の責めに帰すべき事由による本契約の違反により相手方に損害を与えた場合、相手方に直接かつ現実に生じた通常の損害に限り、その損害を賠償する責任を負うものとします。
ただし、逸失利益、間接損害、特別損害、付随的損害および派生的損害については、賠償の対象に含まれないものとします。
故意または重過失がある場合を責任限定の対象外とする場合は、次のような文言を追加することがあります。
ただし、損害を生じさせた当事者に故意または重過失がある場合は、前項の責任限定を適用しないものとします。
もっとも、この条文をすべての契約書にそのまま入れればよいわけではありません。
秘密情報の漏えい、個人情報の漏えい、知的財産権の侵害、第三者からの請求などについては、通常の契約違反とは別の取扱いにすることがあります。
除外する損害と、責任限定を適用しない例外を、契約内容に合わせて設計することが重要です。
損害賠償額の上限も確認する
逸失利益を除外していても、直接損害の金額が高額になる可能性はあります。
そのため、損害の種類を限定するだけでなく、損害賠償額の上限を設けることも検討します。
例えば、次のような文言です。
本契約に関して当事者が負う損害賠償責任の総額は、本契約に基づき現実に支払われた報酬総額を上限とします。
ただし、継続的な契約では、契約開始から支払われた報酬の総額を基準にするのか、直近数か月分の報酬を基準にするのかによって、上限額が大きく変わります。
また、秘密保持義務違反や知的財産権侵害についても同じ上限を適用するのか、故意・重過失の場合は上限を外すのかという点も整理が必要です。
損害の範囲と賠償額の上限は、別々に確認するのではなく、一体として設計することが大切です。
相手方から提示された契約書の確認ポイント
相手方から提示された契約書に損害賠償条項がある場合は、次の点を確認しましょう。
- 損害賠償責任を負う条件が明確か
- 逸失利益や間接損害が含まれているか
- 「一切の損害」など範囲の広い表現になっていないか
- 損害賠償額の上限が定められているか
- 上限額の基準と対象期間が明確か
- 故意・重過失などの例外が定められているか
- 秘密保持、個人情報、知的財産権侵害の扱いが整理されているか
- 双方が同じ責任を負うのか、一方だけに重い責任が課されているのか
損害賠償条項は、契約書の中では数行しかないことがあります。
しかし、その数行によって、契約金額を大幅に上回る責任を負う可能性があります。
「直接損害に限ると書いてあるから大丈夫」「逸失利益という言葉がないから問題ない」と判断せず、条項全体と他の条項との関係を確認することが重要です。
行政書士に契約書作成・内容確認を依頼するメリット
契約書の損害賠償条項は、ひな形をそのまま挿入するだけでは、実際の取引に合わないことがあります。
契約金額、業務内容、納期、成果物、取引相手の事業規模、想定される損害などによって、適切な責任範囲は異なるためです。
行政書士へ依頼することで、取引内容を確認したうえで、次のような事項を整理できます。
- 賠償対象に含める損害
- 除外する逸失利益や間接損害
- 損害賠償額の上限
- 責任限定を適用しない例外
- 秘密保持や個人情報条項との整合性
- 相手方から提示された条項の修正候補
契約書を新しく作成したい場合だけでなく、相手方から提示された契約書について、「この損害賠償条項を受け入れてよいか分からない」という場合も内容確認をご依頼いただけます。
契約締結後に問題が起きてからでは、条項を修正することが難しくなります。
損害賠償の範囲に不安がある場合は、サインする前に確認しておくことが大切です。
まとめ
逸失利益とは、契約違反などがなければ得られたはずの利益が失われた損害です。
ただし、逸失利益は失われた売上額そのものではなく、利益を得るために必要だった費用や、利益を得られた可能性なども考慮する必要があります。
また、逸失利益が必ず間接損害や特別損害になるわけではありません。
通常損害と特別損害、直接損害と間接損害、逸失利益は、それぞれ異なる観点から損害を表す言葉です。
契約書で責任範囲を限定する場合は、「直接損害のみ」と記載するだけでなく、逸失利益を含むのか、除外するのかを明確にしておきましょう。
さらに、損害賠償額の上限、故意・重過失の例外、秘密保持や個人情報、知的財産権侵害の扱いまで確認することが重要です。
「逸失利益や間接損害まで責任を負う内容になっている」
「損害賠償額に上限がない」
「相手方から提示された契約書の条項が不安」
このような場合は、契約書へ署名する前に、損害賠償条項の範囲を確認しておきましょう。
契約書の数行の違いが、トラブル発生時の責任額を大きく左右することがあります。
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