トラブルが起きたとき、どの裁判所で争うのか。管轄裁判所条項の基本と設定のポイントを行政書士が詳しく解説します。
1. 管轄裁判所条項とは?
管轄裁判所条項とは、契約に関する紛争が発生した場合に、どの裁判所で解決するかをあらかじめ定めておく条項です。
たとえば、愛知県名古屋市の事業者と東京都の会社が契約を結ぶ場合、どちらの裁判所を管轄とするのかを明確にしておくことで、後々のトラブルを防げます。
裁判所の管轄には大きく2種類があります。
- 法定管轄:法律で定められた原則的な裁判所(例:被告の住所地を管轄する裁判所)
- 合意管轄:契約で当事者が自由に定める裁判所
この「合意管轄」を設定するのが、管轄裁判所条項の役割です。
2. 管轄裁判所を定める目的
管轄裁判所を定めておく目的は、次の3点に整理できます。
- トラブル時の混乱を防ぐ
どの裁判所に訴えを起こすかを明記しておくことで、訴訟の手続がスムーズになります。 - 移動コスト・時間の削減
自社所在地を管轄に設定すれば、出廷や書類提出の負担を減らせます。 - 自社に有利な裁判環境を確保する
特に遠隔地との取引では、自社地元の裁判所を指定することで、訴訟対応の主導権を握れます。
この条項がないと、相手方が遠方で訴訟を起こした場合に対応が非常に困難になります。
3. 条文例と一般的な書き方
管轄裁判所条項の代表的な書き方は以下のとおりです。
第○条(合意管轄)
本契約に関して紛争が生じた場合、甲および乙は、甲の本店所在地を管轄する地方裁判所または簡易裁判所を専属的合意管轄裁判所とすることに合意する。
または次のように書く場合もあります。
「本契約に関する一切の紛争については、名古屋地方裁判所を第一審の専属的合意管轄裁判所とする。」
ここでのポイントは、「専属的」か「非専属的」かを明確にすることです。
- 専属的管轄:指定した裁判所以外では訴訟を起こせない
- 非専属的管轄:指定以外の裁判所でも可能
通常の企業間契約では、専属的合意管轄を採用するのが一般的です。
4. 実務でのトラブルと注意点
管轄裁判所条項を巡るトラブルや注意点は、次のようなケースに多く見られます。
- 管轄が曖昧なまま契約してしまう
「当事者間で協議して定める」などと書いてあると、紛争時に協議が難航します。
→ 対策:具体的な裁判所名を明記する。 - 相手方の所在地に設定してしまう
営業上の力関係から、相手方所在地を管轄に指定されることもあります。
→ 対策:自社側に不利な場合は、「相互の合意により変更可」と付記する。 - 契約書を電子化した際の署名不備
電子契約の場合でも、裁判所条項は有効ですが、電子署名が適切に行われていないと契約自体が争点になることもあります。
→ 対策:電子契約サービス(クラウドサイン等)を利用して確実に署名する。 - 国際取引における管轄設定ミス
海外企業との契約では、日本の裁判所を指定しても相手が応じないケースがあります。
→ 対策:仲裁条項(日本商事仲裁協会など)を併用する。
管轄裁判所条項は、契約書の最後に置かれることが多い「小さな条文」ですが、実際には最も大きな防御力を持つ条項の一つです。
5. まとめ:万一の紛争に備えた管轄設定を
管轄裁判所条項は、「争いが起きた後にどこで戦うか」を事前に決めておく非常に実務的な条項です。
特にBtoB取引では、契約当事者の所在地が離れていることも多く、トラブル時に慌てないための準備が欠かせません。
設計のポイントは次の3点です。
- 自社所在地の地方裁判所・簡易裁判所を指定する
- 「専属的」か「非専属的」かを明確にする
- 国際契約や電子契約では署名方法・仲裁との整合性を確認する
行政書士は、契約の性質・相手方との力関係・将来的な紛争リスクを考慮して、最適な裁判所条項を設計します。
「万一のときにどこで戦うか」を決めておくことは、契約リスク管理の基本です。


